アニーは愛された

A Place For Annie(1994)米
監督:ジョン・グレイ
出演:シシー・スペイクス(スーザン役)、メアリー・ルイーズ・パーカー(リンダ役)

このドラマについて
 看護婦のスーザンは夫と離婚して一人で息子を育てあげ、彼も高校生。二人の暮らしに十分満足している。そんなある日、彼女の勤務する病院にHIVポジティブのアニーという赤ちゃんが送られてくる。麻薬中毒の母親はエイズに冒されおり、逃げてしまったという。スーザンは世話をするうちにアニーに情が移り、アニーの引き取り先が見つからないことを知ると自分が養子縁組を決意する。しかし、その時、アニーの母親のリンダが「更正した」と言って現れ、アニーの養育権を主張。裁判の結果、リンダにアニーの養育を認める決定が下された。どうしても諦めきれないスーザンは、無職のリンダと共にアニーに自宅に来て一緒に住むことを提案する。


感想
奇妙な共同生活の中でスーザンとリンダのふれあいが描かれている。どちらもシングルマザーであり、そして、自分の親との確執を抱えていることがドラマの進行上でわかってくる。母親との確執は、誰もが抱える、あるいは通ってきた道だろうが、簡単にはいかないのが、また母娘故なのかもしれない。それは、スーザンとリンダのその戸惑や期待や不安を見ているとわかる。彼女達のそんな思いは自分とも相通ずるものがあるせいかもしれない。
また母親としての彼女達の自分の子供に対する思い。生まれた時から深い愛情で息子を育てたのであろうスーザンと、自分の死期を悟り、ほったらかしにしてきた娘への後悔と愛を感じるリンダ。
スーザンはたった一人で息子を懸命に育てて、その息子は母親に理解のある立派な青年に成長している。一方、リンダは子供にどう接していいのかわからない苛立ちや戸惑い、もどかしさに時に投やりな態度を見せる。どうしようもない女だと誰にも見えるが、それでもだんだん心を開き自分のなすべきことを見極めていくリンダの姿には、母親としての自覚が見え隠れしている。
母性とは、女性が本来持っているものだろうか? それとも子を持って母になってみて初めて母性に目覚め、母親になってゆくのだろうか? 何かでそういった話を読んだ記憶がある。このドラマでは、その両方をスーザン、リンダが見せてくれているように思う。リンダの母親ぶりには見ているこっちも「これでいいのか?」と苛立ちを感じてしまう。スーザンはそんな彼女にも姉のように、母のように接していくが、その姿は理想的な母親像と言えるのかもしれない。こうなりたいけど、なかなかこうはなれないのが私達の現実という気もしてくる。さて、私はどうなのか? と考えたとき、そのどちらが女性の本来の姿なのか結論は出ないけど、母親業は実に大事業なのだと痛感した。どの仕事とも異なり、同時にどの仕事の要素も含み、また自分は子供にとって唯一無二の存在であり、この役を降りることは出来ないのだから、その責任は果てしなく大きく重い。そんな覚悟をして出産に挑んだかというと、そうではないところに自分の浅はかさも感じたりして……。妙にそんなことを考えた映画だった。(2002/4/6)


出演者情報

  • シシー・スペイセク(スーザン役)
    Sissy Spacek。1949年12月25日生。アクターズ・スタジオで学んだ演技派女優。デビューは72年の「ブラック・エース」だが、彼女を有名にしたのは76年のウィリアム・カット(「アメリカン・ヒーロー」)と共演した「キャリー」ではないかと思う。私にとってはこのときのイメージが強すぎて、どの作品を観てもキャリーを思い出してしまうが、数々のヒューマンドラマにも出演している。84年のメル・ギブソンとの共演作「ザ・リバー」も印象的だった。80年には「歌え! ロレッタ愛のために」でアカデミー主演女優賞を受賞。俳優のリップ・トーンはいとこ。夫のジャック・フィクスは監督。出演作品は、「キャリー」、「三人の女」、「歌え! ロレッタ愛のために」、「ミッシング」、「ザ・リバー」、「ロンリー・ハート」、「ロング・ウォーク・ホーム」、「JFK」、「マミー・マーケット」、「グラス・ハープ」、「タイム・トラベラー」、「ストレイト・ストーリー」他。
  • メアリー・ルイーズ・パーカー(リンダ役)
    Mary-Louise Parker。1964年8月2日生。彼女は日本では「フライド・グリーン・トマト」で有名になったと思う。共演のメアリー・スチュアート・マスターソンと対照的な女性を演じて、我々に深く印象付けた。私は「ロング・タイム・コンパニオン」で観たのが最初。以来、この人はどうもエイズ関連の映画出演が多いなあーと感じるのが……。この作品でもHIVポジティブで死期迫る女性でずいぶん投げやりな人生を送っている役だった。映画デビューは89年の「サインズ・オブ・ライフ」。90年には「キスへのプレリュード」の舞台に立ちトニー賞にノミネートされている。出演作品は、「サインズ・オブ・ライフ」、「ロング・タイム・コンパニオン」、「わが街」、「フライド・グリーン・トマト」、「最高の恋人」、「ネイキッド・イン・ニューヨーク」、「依頼人」、「ブロードウェイと銃弾」、「ボーイズ・オン・ザ・サイド」他。