おおきく振りかぶって①

原作:ひぐちアサ 月刊アフタヌーン連載(講談社) 放送:TBS、MBSほか
まだ現在も連載中のようである。おそらくコミックの最新刊は32巻ではないかと思う。私はこの月刊誌を買って読んだことはないが、コミックになってから購入している。それは、アニメが終了した後の西浦ナインたちがどうなったのか、知りたかったからだ。で、我が家には9巻からある。

アニメは、第1シーズンが好評だったのか、第2シーズンまで作られて、ファンの間では第3シーズン放送の期待は高まっているが、まだ放送されていない。噂によると第2シーズン後の漫画の内容は西浦高校から離れて、武蔵高校や他の学校の話が多くて、主人公の廉やナインたちの話が少ないからだ、とも。確かにそうかも。でも、その辺は飛ばして、西浦高校のとこだけ放送すればいいのになあ、なんて私は勝手なことを思っているのだが、こればかりはファンの気持ちだけでどうにかなるものでもないのかもしれませんね。

野球やサッカーのアニメは、いつの世も人気だと思うのだが、我が家では野球アニメを息子が小さい時から観ていて、本来は最初は当サイトでも「メジャー」をピックアップする予定でしたが、おおふりが先になってしまいました。「メジャー」もすごく面白くてよく出来た作品だと思うし、どのキャラクターも魅力的なのだが、おおふりは女性漫画家が書いた漫画がベースにあるので、目の付け所が男性漫画家と違って新鮮だった。野球自体を好きでなくても楽しめる、そこがこのアニメの魅力の一つともいえると思う。(2019/11/21)

●こんな話

主人公の三橋廉は、新たなる出発をするために群馬から埼玉の高校に進学した。群馬では祖父の経営する三星学園に在籍し、大好きな野球部でピッチャーをしていたが、しかし、仲間達と楽しみたかった気持ちとは裏腹に三橋の中学時代は悲惨な結果に。チームメイトは「理事長の孫だからヒイキされている」とエースの三橋を認めようとはしなかったのだ。
心機一転、埼玉に住む母の元に戻った三橋は西浦高校に進学し、もう辞めるつもりだった野球をなりゆきで続けることに……。西浦高校の硬式野球はちょうど設立したばかりでメンバーは全員1年生。そしてコーチは女性だった。三橋の新たなる旅立ちには、何が待ち受けるのか?

●野球アニメとの出会い

正直な話、最初はあまり期待していなかった。実は私の野球漫画あるいはアニメ経験は、「キャプテン」のみ。有名な「巨人の星」も「野球狂の詩」も「ドカベン」も読んだことも見たこともない。偶然放送されていた「キャプテン」を見たとき、ごく普通の野球好きの少年谷口が成長していくドラマに興味を感じて最後まで見てしまったというのが、本格的な野球アニメとの出会いなのだ。実際、これまでの人生、野球に特別興味を持ったこともないのが私。
その私が珍しく「面白い!」と、はまったのが、NHK教育で放送していた「メジャー」。そして、「めちゃめちゃ面白い!」と決定打になったのが、「おおきく振りかぶって」。とは言え、野球のルールや技術についてよく理解した、というわけではないんですが。

●「おおふり」の魅力

さて、本題に戻ると、この野球アニメは、失意のどん底の三橋廉君の再生の物語、なんて言うと本屋に平積みにされた「今注目の本!」の帯に書かれた陳腐なコピーのようで恥ずかしいのだが、三橋はとにかく人生をやり直したいと思っている。第一印象はすごく頼りない。決意はあるのに情けない。性格のせいもあるけど、中学時代の体験から、なかなか一歩を踏み出す勇気がない。その彼がやめようと思っていた野球をひょんなことから再びやることになり、新しい場所で新しい仲間と共に新しいやり方で野球に取り組んでいくことになる。

おかしなリアクションやオドオドした話し方、はっきりしない意思表示、すべてがもどかしいが、少しずつ変わっていくその変化が、とても興味深い。本当の自分を発見することで変化していく姿が、彼自身だけでなく、周囲にも影響を与えていくのだ。

その部分においては「メジャー」の吾郎と同じだ。彼らの野球に取り組む姿勢、友達や仲間と向き合う姿勢は人生を生きる姿勢であり、そこに偽りや不安はない。信じることが真実であり、それが自信につながる。なんて大人の私はそんな視線でドラマを見てしまうが、多分一緒に見ている子供は単純に楽しんでいる。今、小学生のうちの子供も中学生になってこのアニメを見たら、また違った視点で見られるに違いないと思う。そんなところに本当の魅力が隠れているのかも。

●「おおふり」の別の見方

この物語は挫折した少年の新たなる出発を目指した再生のストーリー、と最初に書いたのだが、私は密かにもう1つの視点を感じている。野球少年の話であるこの漫画を書いたのは女性漫画家。それゆえか登場人物は、たとえば「メジャー」や「キャプテン」に出てくる少年達に比べて可愛い、キュート、女心をくすぐる、と思う。一人一人の心理描写もとても細やかで内面的な部分が見る側にわかるように描かれている。

そんな部分から、私はかつて自分が少女だった頃、大好きだった漫画家、萩尾望都をふと思い出してしまうのだ。当時、「少年愛・同性愛」というものがブームで、おそらく火をつけたのは、竹宮恵子の「風と木の詩」ではないか、と思うのだが、萩尾望都の「ポーの一族」や「トーマの心臓」なども同じ分類にされていた。今は「BL(boys love)」と呼ぶジャンルらしいが、とにかくそうした10代中頃から後半にかけての大人になる前の少年時期、日本で言えば高校時代に当たるが、その頃の複雑で繊細な心を抱えた彼らの友情とも愛情ともつかぬ関係、微妙なバランスが私達少女の心を揺さぶったのだと思う。

私が「おおふり」を見ていて思い出す漫画は、「トーマの心臓」だ。ドイツのギムナジウムと呼ばれる寄宿学校が舞台で、ある日、その学校にエーリクという見るからに坊ちゃんという印象の少年が転校してくる。お金持ちの一人っ子らしくわがままな部分も見え隠れするが、巻き毛で愛らしい顔つき、性格も明るくまっすぐだ。その彼と上級生であり寄宿舎の監督生でもある優等生の黒髪美しいユーリ、そして、彼の親友で不良っぽいオスカー。この3人を中心に学校で謎の転落死をしたトーマの事件を巡って、学校生活が繰り広げられる。

ユーリは過去のつらい思い出から常にクールで気持ちを乱すことがない。親切であるが、誰にも心を開いていない。親友のオスカーにさえ、心を閉ざす時があるのだ。そんなユーリの人生に飛び込んできたエーリクは死んだトーマにそっくりである。エーリクとトーマは何の親戚関係もなく偶然似ていただけなのだが、それがユーリを苦しめる。同時に彼はユーリに失ったものを思い起こさせるのだ。

実は、エーリクもユーリもオスカーもみな「身内の死」という悲しい過去を背負っている。学校生活では多くは語られない家族の悲しみが彼らの中にはひっそりとしまってあるのだ。吹っ切れたはずの過去の出来事に囚われている3人は果たして新たな旅立ちを迎えられるのか、その結末をここで書いてもしかたないのでやめるが、私にはどうも三橋と阿部の関係って、エーリクとユーリの関係に見えてしようがないのだ。別に設定は似ていないのだが、どこか共通していないか? そして、あえて言えば、オスカーは花井というところか……。

「おおふり」は別に同性愛の漫画ではなくて、正統に野球漫画だともちろん、私も思っている。だから、私のこんな見方の話に怒るファンもいるかもしれない。「トーマの心臓」は寄宿舎という閉ざされた空間が舞台であったため、そうした色合いが濃く出ているが、でもどちらも大人になる過程での乗り越える壁という点においては同じではないだろうか。それは母親や父親が何とかしてやれるものではなくて、自分自身で道を見つけなければならないことなのだ。
などと屁理屈はいいとして、そんな風に私にとっては一粒で2度も3度もおいしいアニメであることは確実と言っておこう。(2008/06/23)

●主題歌

第1シーズン
1~13話オープニング 「ドラマチック」
作詞・作曲:小出祐介 編曲・歌 : Base Ball Bear
1~13話エンディング 「メダカが見た虹」
作詞・作曲・歌:高田梢枝高田梢枝 編曲:TOMI YO
14~25話 特別編オープニング  「青春ライン」
作詞・作曲:水野良樹  編曲:江口亮 歌:いきものがかり
14~25話 特別編エンディング 「ありがとう」
作詞・作曲:石田順三   編曲:鈴木Daichi秀行  歌: SunSet Swish
第2シーズン
オープニングテーマ 「夏空」
作詞・作曲:尾崎雄貴   編曲・歌:Galileo Galilei
エンディングテーマ 「思想電車」
作詞:酒井由里絵 作曲:酒井由里絵、重松謙太 編曲・歌:チュール
追記:私見ではあるが、野球アニメのテーマ曲は元気が出る良い曲が多いように思う。昔観ていてた「キャプテン」も子供と一緒に観た「メジャー」も、そして現在放送中の「ダイヤのA」もそうだ。大好きな野球を頑張る彼らにも悩みはあるし、落ち込むこともある。そんな彼らを再び奮い立たせ、前向きにする歌は、視聴者に向けた頑張る力、勇気を持つことへのエールでもあるのではないか、と感じてしまうのだ。そしてその中に盛り込まれた周囲への感謝もポイントが高い。このドラマでもそう。どの曲も好きだが、私が特に気に入っているのは、SunSet Swishの「ありがとう」と Galileo Galileiの「夏空」。いつ聞いても何度聞いてもいいよねえ~。アニメやドラマの主題歌は歌を聴くとその場面を思い出してしまうこと。また観たくなる感情がもっともっとそのアニメやドラマを好きにさせてしまう魔法があるのだ。(2015/12/27)

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