第13回 ルーシー・モード・モンゴメリー

Lucy Maud Montgomery(1874-1942)作家
自分の半身とも言えるヒロインと共に生き続けた作家

 「赤毛のアン」。女性なら、一度は読んだことのある本。おそらく、これほど親しまれている本はないのではないか、と思うくらいです。その作者、ルーシー・モード・モンゴメリー。彼女はカナダ東海岸に浮かぶ美しい島、プリンス・エドワード島で産まれました。

早くに母を亡くし、ルーシーはキャベンディッシュの母方の祖父母のもとで成長します。父はカナダ西部へと移住し、別の女性と再婚しました。祖父母はかなり厳しい人だったようですが、素晴らしい自然や仲のいいいとこ達に恵まれ、少女の頃に文を書く喜びを見出します。

1891年には処女作「マルコ・ポーロ号の遭難」が地方紙にも掲載されました。1893年頃から教師として教壇に立ち、ハリファックスのダルハウジー大学で英文学も学んでいます。しかし、この20代の時期に祖父と父を亡くしたルーシーは、一人残された祖母の世話のために28歳の時にキャベンディッシュに帰郷しました。

アンを書き始めたのは1905年のこと。少女時代の日記や書き留めていたメモからアンは生まれたのでした。農場の仕事や家事の合間に書いた「赤毛のアン」は3年後にボストンのペイジ社によって出版されます。最初はどこの出版社も不採用だったルーシーのアンは、ついに活字となってこの世に登場したのです。本はベストセラーとなりました。この時から、幸か不幸かアンと共に歩むルーシーの人生が始まります。

1911年に祖母が亡くなると、長年密かに婚約していた牧師ユーアン・マクドナルドと結婚。愛情はともかく、地位や家柄と言った点では申し分のない相手でした。そして、夫の赴任先であるオンタリオ州で牧師夫人としての生活を送ることになりました。地域の奉仕活動などを献身的にこなす中、長男の出産、次男の死産、三男の出産と私生活もめまぐるしい日々を過ごします。そんな間もルーシーは読者の要望に応えてアンのシリーズを書き続け、またその他の素晴らしい作品も生みだしていきます。

本がヒットしていく一方で、ルーシーの生活は苦労と疲労の連続でした。出版社相手の法廷闘争や、夫の精神衰弱、親友の死、そして、彼女自身も長年の頭痛や睡眠不足から体を壊していたのです。1935年、夫が牧師を引退したのを機に、オンタリオ州トロント西部に引っ越し、購入した家に「旅路の果て荘」と名付けたルーシーは、1942年にここで人生の最期の時を迎えました。そして、その亡骸は最愛の土地プリンス・エドワード島キャベンディッシュの共同墓地に埋葬されたのでした。

私自身は、少女の頃に読んだ「赤毛のアン」に、さぼど魅力を感じていなかったというのが事実です。彼女との再会は大人になって手にした「青い城」でした。この本を読んだとき、今まで色褪せていた彼女が急に生き生きと見えてきたのです。好きな人はアン・シリーズを一番と答えるでしょうけれど、私は他の作品に彼女の魅力を感じます。アンと共に生きることになったルーシーは、自分の人生とアンの人生を交錯させながら、果たせなかった夢をアンにつないでいます。

赤毛のアン (講談社文庫―完訳クラシック赤毛のアン 1)苦しみながら書いていた、そんな印象を受けるのです。だからこそ、これほどまでに人気があるのかもしれません。アンを書くことが苦しい、けれど、辞めることは出来ない。生活のため、読者のため、そして、自らのため。

私は、ルーシーの書き続けた人生の強さにとても惹かれます。「続けること。それが一番大事」と言われた言葉をいつも思い出させてくれます。果たして、彼女の人生の終わりの瞬間に心に去来したものは何だったのでしょうか? ふと、そんな思いに駆られるルーシーの人生です。(2001-07-10)


 「赤毛のアン」は何度も映画化されているが、やはりお馴染みは1985年のミーガン・フォローズ主演のもの。その後、「続・赤毛のアン/アンの青春」も製作された。他には「丘の上のジェーン」やテレビドラマで「アボンリーへの道」(原作は「ストーリー・ガール」)などもある。どれも美しいプリンス・エドワード島の映像が、観るものを優しい気持ちさせる作品ばかり。個人的には「青い城」を映画化してほしいところ。それから、唯一の詩集と詩集 夜警 (ニュー・モンゴメリ・ブックス)なったと言われる「夜警」。私はこの詩集が大好きだけど、プリンス・エドワード島の景色を背景に詩の朗読をした作品があってもいいのに、と常々思う。感受性豊かなルーシーの言葉があふれる詩集で彼女の愛した自然を堪能できること請け合い。素晴らしい1冊です。
●ルーシー・モード・モンゴメリーに関しては緑さんのMidori,s Roomでも詳しく紹介されています。作家の年表や映画化・ドラマ化された作品について見ることが出来ます。

追記:2008年に百貨店で開催していた「出版100周年記念企画 赤毛のアン展」に行った時のことを再びアンブームのきっかけとなった「花子とアン」の放送時に投稿しています。興味があれば、こちらへ。(2014/05/08)
また、2014年に開催した「モンゴメリと花子の赤毛のアン展」に行った時のことはこちらへ。「行ってきました、モンゴメリと花子の赤毛のアン展」 (2014/06/07)

青い城 (New Montgomery Books 4)追記:また、今秋には2015年に新しく作られた「赤毛のアン」の続編が2作品、「赤毛のアン 初恋」と「赤毛のアン 卒業」(ともに2017年のカナダ作品)が日本で公開されます。前作と同じキャストで同じ監督。今回のこのアンを演じたエラ・バレンタインはとても好評のようで、私も見たい作品。しかも、マシュウ役はマーティン・シーン! 当サイトにupできれば、と思っています(2018/09/25)