第3回 イデス・ヘッド

Edith Head(1897-1981) 衣裳デザイナー
『シンプルであればあるほど美しい』と言い続けたデザイナー

イデス・ヘッドは、「シンプル」である美しさを示した初めてのデザイナーです。ハリウッドではそれまで、衣裳は華麗で派手にきらびやかに女優を演出するするもの、といった観念を持ち続けていました。また、彼女は「私はファッションデザイナーではありません」と言って、スタジオの衣裳デザイナーであるスタンスを通したことも、他のデザイナーとは異なります。数々の映画の衣裳を手がけ、多くのアカデミー賞ノミネートと8個の受賞を手にしながら、彼女の衣裳が一般大衆の中でブランドとして残らなかったのは、そうした彼女の信念にもあります。

そんな彼女のデザイナーとしての出発は、生活のためにこの世界に入ったことから始まります。大学卒業後、裕福な子女相手の高校のフランス語教師をしていたものの、お給料の安さから転職をしたと言われています。もっとも、デザインの経験はなく、そのため友人のデザイン画を面接に持参したという逸話も残っています。

かなり内気で引っ込み思案の彼女の私生活はあまり知られていません。自分を隠すような箒みたいな前髪と濃いサングラスがイデスのトレードマーク。一番のお気に入りの映画は『泥棒成金』、お気に入りの女優はグレース・ケリー。彼女は、グレースのレーニエ公との結婚式の時のウエディングドレスが作れなかったことをオスカーを逸したこと以上に残念がり、自前でグレイスの外出着を作らせてくれと頼んで贈ったそうです(ウェディングドレスはヘレン・ローズが担当した。彼女の有名な作品としては『熱いトタン屋根の猫』のエリザベス・テイラーの衣裳を担当している。こちらもまた素敵)。

イデス自身の結婚は2度。教師時代に離婚を経験し、映画会社で知り合った美術デザイナーのウィアード・イルヘンとの人生を全うしました。自らはワースト・ドレッサー賞に選ばれたこともあるイデスは、「私は流行を作り出したいのではない。女優の美しさを最大限に引き出したいだけなのだ」と語っています。その言葉の中に、裏方に徹した彼女のプライドと『お洒落』の本当の意味があると感じるのは、私だけではないと思います。(2000-06-22)


イデスは、それまでアカデミー衣裳賞は女性映画の中だけのものであったハリウッドにおいて、初めて男性映画での衣裳賞を受賞したデザイナー。最初に男性服を手がけたのは、『明日に向かった撃て!』だったが、受賞作品は『スティング』。どちらの映画も男性服のお洒落、ダンディーさが十分に発揮されたもので、本当にかっこいい。女性服で堪能できると思うのは、『陽のあたる場所』のエリザベス・テイラー、『汚名』のイングリッド・バーグマン、『ローマの休日』・『麗しのサブリナ』のオードリー・ヘップバーン、『泥棒成金』・『裏窓』・『喝采』のグレース・ケリーマリリン・モンローの駆け出しの頃の作品でもある『イヴの総て』もそうだ。また、イデス自身も本人役として女優出演している作品が何本がある。日本でも放送されたのは、有名なドラマ『刑事コロンボ』。ユニバーサル映画社の撮影所で起きた殺人事件を調査に来たコロンボが迷ってしまい、間違ったドアを開けたときに、中にいたのが彼女。部屋の中にはズラリとオスカー像が飾ってあったのが圧巻だった。
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