ブーリン家の姉妹

The Other Boleyn Girl 2008年 イギリス、アメリカ作品
監督:ジャスティン・チャドウィック
出演:ナタリー・ポートマン(アン役)、スカーレット・ヨハンソン(メアリー役)、エリック・バナ(ヘンリー8世役)、クリスティン・スコット・トーマス(ブーリン夫人役)、デヴィッド・モリッシー(トーマス・ハワード役)、マーク・ライランス(ブーリン卿役)、ジム・スタージェス(ジョージ・ブーリン役)、ベネディクト・カンバーバッチ(ウィリアム役)オリヴァー・コールマン(ヘンリー・パーシー役)、アン・トレント(キャサリン・オブ・アラゴン役)
原作:フィリッパ・グレゴリー


ヘンリー8世をめぐる歴史劇。史実に忠実か否かという点が、こうした歴史時代ものにはついて回る話題だが完全に史実に忠実かどうかは、「映画」というフィルターを通して見る場合は問題ではないと私は思っている。あまりにかけ離れた内容であれば、「全くのフィクションである」と前置きはあった方がいいとは思うが、映画や小説となると制作者や作者の考える視点が入ってしまうのだから、完璧な史実を求めても違う作品になってしまうだろう。

ヘンリー8世は英国史上では有名な王様のひとり。特に女好きであったとの点で誰もが知る王様だ。この映画はそうした女性たちのうち、ブーリン家の姉妹アンとメアリの物語。
利発で物怖じしないはっきりとした性格、積極的と言うよりは野心的でさえある姉のアンと、美人ではあるが控え目、しかし自分の意志で心の中の正義に忠実であろうとする芯の強さを持つ妹のメアリ。対照的な二人がヘンリー8世の愛をめぐり歴史に翻弄される様子を描いている。

メアリは冒頭で大商人(「SHERLOCK シャーロック」のベネディクト・カンバーバッチが演じている)と結婚し、ヘンリー8世と会った時は人妻である。ヘンリー8世が一方的にメアリを見初め、半ば強引に愛人にした。メアリの父や伯父も自分の権力を強める為には既婚の娘を王の要求のまま差し出すことに何のためらいもない。夫でさえ、無言だ。渋々、夫と別れて王の愛人になるメアリとヘンリー8世にふさわしいのは自分だと野心むき出しのアン。

映画の中では徹底的に二人は対照的に描かれる。愛人としてヘンリー8世の子を出産したメアリだが、その頃、彼はフランス帰りの洗練されたアンに夢中でメアリのことも王妃のキャサリン(彼女は男子を産んでいないため、ヘンリー8世とはすきま風が)のことも眼中にない。英国の禁さえ破って王妃と離婚しアンを妻に迎える。

ヘンリーは何故アンにあれほど夢中になったのだろう? それは女にはわからぬ男の本能なのだろうか? 男子を欲しがる気持ちはわかるが、身勝手でただの女好きにしか見えない。登場する男性すべてが、身勝手で権力にしがみつこうとしているように見える。そういう時代だったのかもしれないし、映画自体は男性陣でなく、タイトルの通りブーリン家の姉妹が主人公の内容なので、着目すべきはアンとメアリ、と言えばそうかもしれない。

対照的な二人は、人生の選択も送り方も対照的である。産んだ子供もメアリは男子、アンは女子、メアリは城を去り、アンは王妃として残った。だが、その最期は産んだヘンリー8世との娘エリザベスをメアリに託し、処刑されることになる。映画はその悲しい末路と遺された子供たちの映像で終わる。

歴史としては、後年そのエリザベスは女王となり、英国の繁栄をもたらすことになるのだから、歴史の皮肉を感じずにはいられない展開。人が時代に翻弄されているようでもあり、また自身の強い意志によるものとも思える。

アンは自分の欲望に、メアリーは自分の信念に正直だ。二人は自らの望みもよくわかっている。どちらが好きか? 自分はどちらに似ているかと考えたとき、メアリーのようでありたいと願い、しかし、アンのように生きたい気持ちも捨てきれない、それが多くの本音じゃないだろうか。コインの裏表のように二人のような二面性をみんな持っていると思う。人は常に揺れ動き、悩み苦しみ、人生の選択を繰り返している。もっと歴史を知って、歴史から「人」を学ぼうよ! とも感じてしまった作品であった。

さて、俳優、女優については、ヘンリー8世を演じたエリック・バナは世間では賛否両論のよう。私自身は本物よりもかっこいいかな? とは感じたものの、特に感想はない。彼の他の作品を観ていないのでそのせいもあるか……。気になったのはやはりベネディクト・カンバーバッチ。でも出番が少なすぎてがっかり。大商人と言うウィリアムはメアリーと離婚した後はどうなったんだろうか?

映画公開当時にも注目されたナタリー・ポートマンとスカーレット・ヨハンソン。これまでのイメージから言って、二人の役は逆なんじゃないか?とも思っていたけれど、これはこれでよかったかな。ナタリーは「スター・ウォーズ」のアミダラ姫の役の印象が強いせいか、こうまで野心的な女性はちょっとしっくりこないけど、女の執念みたいものは滲み出ていた。スカーレットは、メアリの役柄上か、かなり抑えた感じの演技でメラメラ燃える情熱のようなものを内に秘めている女性役が似合っていると思っていたけど、それは違ったかも、とも……。いずれにしても内容自体はドロドロの愛憎劇でもあり、すっきりしたラストとはいかないのがこの手の話。好き嫌いは分かれそう。(2013/07/08)

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