おもかげ

MADRE MOTHER スペイン / フランス 2019年
監督:ロドリゴ・ソロゴイェン
出演:マルタ・ニエト、ジュール・ポリエ、アレックス・ブレンデミュールほか


「アカデミー賞短編実写映画賞にノミネートされた作品のその後を描いたドラマ」とあるように冒頭のノミネートされた部分、主人公エレナの息子が行方不明になるシーンは観る側の気持ちを緊張感と不安で包む。それが一転して10年後のその海岸のシーンは、我々日本人が思い描く夏の暑い海辺ではないものの、穏やかで美しいヨーロッパの夏の海岸だ。洒落たビーチレストランで働くエレナは夫と別れ新しい恋人と暮らしているが、息子を失った時から心の中は何も変わっていないように見える。偶然見かけたフランス人少年ジャンに息子のおもかげを感じてから少し光が差したように変化が見えてくるが、私には次第に彼女の行為や様子がストーカーのように思えてならなかった。

突然、息子を失ったエレナの悲しみと苦しみは10年経っても癒されてないし、先に進めずに生きているのは理解できるが、変えられぬ事実と過去に逆行(というより、息子との時間を経験してみたい感情?あるいはあの過去はなかったと思いたい願望とが入り混じった複雑な気持ちなのか?)しているようにも見える。
生きる目的や夢を失い、探し続ける日々に突然差した光に最初は戸惑いつつも次第に大胆になるエレナの様子は、既に母親である姿には見えなかった。

同時にジャンの目にもたとえば友達のお母さん的な女性ではないことは伝わってくる。理性を失った思いがどこに行くのかのは、一般的な人生経験を経た大人にはわかるはず。無謀な行動や中年女性らしからぬ様子は、幼子を突然失った悲しみから抜け出せていないからだとしても、そして、その失った原因が自分ではなく別れた夫にあって、その張本人が再婚して幸せになっていることに憤りを感じるからだとしても超えてはいけない一線はあるはずだと、私は思う。

人は悲しみや苦しみを誰かのせいにしたいものだ。仮にそれが本当に誰かのせいだとしても、そこから抜け出すには自分の力で何とかするしかない。誰かが救い出してくれるものではないのだ。ましてや、息子に似ている少年ではない。

怪しげな二人の様子に気づいたジャンの家族は引き離そうとし、エレナの恋人も新天地でやり直そうと彼女に迫るが、エレナはどうしてもジャンと離れる気になれない。結末は想像通りにはなり、やっとエレナも一歩が踏み出せるのでは?と感じられるラストではある。しかし、見る人によっては感じ方はかなり違いそう。私の中では理解できない部分が多かった。同じ母親としても、妻としても、女性としても。

「冒頭の賞を受賞した部分から広げた映画」、という展開は良かったが、その後の展開は残念。「見どころはやはり冒頭の息子がいなくなるシーン」というような感想を書いていた評論家がいたが、まさしくその通り!と共感してしまう映画となっていた。

以前、当サイトでも取り上げた、行方不明になった息子がある日突然見つかって戻ってきたその家族の様子を描いた「ディープエンド・オブ・オーシャン」のような息子が見つかったバージョン、あるいは見つかるまで探すと執念の母親を描くアンジェリーナ・ジョリー主演の「チェンジリング」のような息子を失った母親のその後を描くバージョンと、どちらかになりがちな展開を別の切り口にしたのはよかったと思うけれど、息子がどうなかったのかが、やはり見る側は気になるのではないか、とラストでも消化不良であった。(2023/05/07)

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