太陽の雫

Sunshine 1999年 カナダ・ハンガリー作品 
監督:イシュトヴァーン・サボー
出演:レイフ・ファインズ(イグナツ・アダム・イヴァンの3役)、ローズマリー・ハリス(晩年のヴァレリー役)、レイチェル・ワイズ(グレタ役)、モリー・パーカー(ハンナ役)、ジェニファー・イーリー(若き日のヴァレリー役)、ジェームズ・フレイン(グスタフ役)、デボラ・カーラ・アンガー(キャロル役)


ニ年前より、ずっと観たいと思っていたこの作品がついに日本で公開。この映画は19世紀の終わりから現代まで、ハンガリーのユダヤ人ゾネンシャイン一家に生まれた男3人の人生を描いている。

一人目は一家の秘伝レシピの薬草酒で一代で財を成したエマヌエルの息子イグナツ、そのイグナツと美しい従妹ヴァレリーとの間に生まれたアダム、そして、アダムとハンナとの間に生まれたイヴァン、この3人の男をレイフ・ファインズが一人で演じる。やや混乱する感じも残るが、時代と共に彼の風貌、衣装が変化するのもファンには嬉しい発見かも。そして、ちょっとドキドキのレイフのフルヌードもあり、これはレイフファンのためにサービスしすぎ! なんてことも言いたくなるが、それがかすむほどの彼の圧倒的とも言えるような演技に、観ているこちらはニ年前のアルメイダ劇場来日公演を思い出してしまい、この映画のレイフを目の前にしつつ、あの舞台の感動が甦ってしまったのも事実。

ゾネンシャイン一家の男達は、激動のハンガリーの歴史の中で翻弄され、非常に密度の濃い人生を送ることになる。法律家として職のために名前を変え、皇帝に忠誠を誓うイグナツ。フェンシングの腕を買われ、それを伸ばすために改宗し、オリンピック代表となって金メダルを獲得したが、ナチの台頭により収容所に送られ、息子の前で惨殺されたアダム。そして、誇りを守ったことで父は殺された、とその恨みから警察に入りファシスト狩りにのめり込んで共産党員となったイヴァン。

3人がそれぞれにその時代の政治に深く関わり、その挙句の果てにイグナツとアダムは命を落とす。彼らの生き様を見ていると、頑固なまでの自分の信じた道を貫き通そうとする意志に突き動かされて生きているように感じる。尊厳を持って生き抜くことがすべてであるかのごとく、彼らは頑なな部分を崩さない。

そして、3人の男達はみな、道ならぬ恋に落ち(イグナツは父が禁じていた従妹ヴァレリーと結婚。アダムはハンナという恋女房がありながら兄嫁グレタと関係を持ってしまい、イヴァンは権力者の妻であるキャロルと不倫)、その苦悩を抱えつつも自分の選ぶ道を変えることはない。そんな彼らと共に生きることになった3人の女達もまたそれぞれに強かであり、”恋愛”という感情の中においては一歩先んじている。

国家の運命に左右されて生きる男と、柳のようなしなやかさでその合間を縫うように生きていく女。そこに私は男女の違いがよく表現されていると思う。彼女たちの中で唯一生き残るのはヴァレリーだけだ。その当時としてはおそらく珍しく写真に興味を持ち、女性カメラマンとして生きたヴァレリーは、イグナツの父であり、自分の伯父であり養父のエマヌエルを含め4人のゾネンシャイン家の男達の人生を見守ることになる。そう考えるとイヴァンがこのストーリーの語り部として登場しているが、ヴァレリーもふさわしい人物のように思えてくる。

共産党から民主主義化の運動へと身を投じたイヴァンは逮捕された後、ヴァレリーが守っていた屋敷へ戻ってくる。彼女はイヴァンに、動乱の時の中で行方不明になってしまった一族の秘伝のレシピを一緒に捜してくれと頼む。しかし、見つけられずに彼女は長い人生を終えた。残されたイヴァンは家財道具をすべて処分し、一から出直すことを決意するが、彼は気付いていたのだろう。一族が、そしてヴァレリーが守りつづけたもの、それは失ってしまった秘伝のレシピではなくて、「そこにありつづける『家族』というものの存在、ヴァレリーが”写真”を通して捉えたかったのだと言った『人生の美しさ』なのではないか。

ラストではイヴァンは、イグナツが”ショルシュ”と改名した姓を本来の”ゾネンシャイン”に戻し、颯爽と街を歩いていく姿で終わる。その吹っ切れたような姿は、これまでのハンガリーの悲しい歴史と対象的で非常に印象的だ。

ところで出演者達は、というと、俳優はレイフの独壇場と言っていい。気になるのは、女優達。この映画が見たかった理由の一つはジェニファー・イーリーとレイチェル・ワイズにある。ジェニファーは「高慢と偏見」で日本でも知られるようになったが、その頃に比べてややぽっちゃりしているように見えるけど、美しさでは今回の方が上。あの胸が暖かくなるような笑顔も健在。レイチェルについては、このグレタ役は私の好きな女性じゃないけど、それでも嫌いになれい不思議な女優。「チェーン・リアクション」を観て以来、気になって気になってしょうがない女優なのだ。そして、最後にレイフの恋人役を演じるデボラ・カーラ・アンガーは、その出演順から言っても観客に印象を残すとも言えるけど、それだけでなく強烈な印象を残す女優だったし、こんな個性的な女優に囲まれて少し存在が薄い感じのハンナ役のモリー・パーカーは、3人のような華やかさはないまでも芯の強い女性を見事に見せていたと思う。(2002/11/13)

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