ミルドレッド・ピアース 幸せの代償

MILDRED PIERCE (2011年) アメリカ
監督:トッド・ヘインズ
原作:ジェームズ・M・ケイン「MILDRED PIERCE」
脚本:トッド・ヘインズ

出演:ケイト・ウィンスレット(ミルドレッド役)、ガイ・ピアース(モンティ役)、エヴァン・レイチェル・ウッド(ヴィーダ役)、モーガン・ターナー(少女時代のヴィーダ役)、ジェームズ・レグロス(ウォーリー役)、メリッサ・レオ(ルーシー役)、ブライアン・F・オバーン(バート役)、メア・ウィニンガム(アイダ役)ほか

このドラマについて
ミルドレッド・ピアース [DVD] この作品は、1945年にジョーン・クロフォード主演で映画「ミルドレッド・ピアース」が作られているとのことである。ただ映画版は原作とは違う設定で殺人事件が起こるらしい。私は未見なのであらすじ、感想等はここでは賭けないが、これはこれで良くできているらしいので、いつか観てみたいなあ、と思う。ドラマ版でミルドレッドを演じるのはケイト・ウィンスレット。ストーリーは簡単に言えば、1930年代のアメリカ、夫の浮気が許せずに別れ、2人の娘を抱えたシングルマザーとなったミルドレッドの愛と仕事に生きる人生を描くドラマ、と言えると思うが、私にはちょっと予想外のドラマだったと言えるかも。

感想
専業主婦が当たり前の時代であり、そして不況という時代背景に、離婚したミルドレッドへの風当たりは厳しい。夫のバートは悪い人ではないが、美人妻と可愛い娘がいるのに何故か近所の未亡人(本当は夫とは別居していただけのようだが)と浮気のあげく、友人と経営していた不動産業も失敗でミルドレッドと別れることになる。

素敵な一戸建てに自家用車、と一体何が不満だったのか、わからないが(後になってミルドレッドを見ていると浮気したくなるかも、とも思ったが)、登場しない浮気相手をミルドレッドはたいしたことない女だと言わんばかり。ミルドレッドも子煩悩な優しいバートの何が気に入らないのか、不満ばかりという感じが漂う。離婚も当然か? と思っているうちにあれよあれよと夫の仕事のパートナーだったウォーリーと関係を持ってしまい、やっと見つけたウェイトレスの仕事で知り合ったイケメンのポロ選手モンティとも恋に落ちる。

音楽の才能を生かそうとピアノを習わせている気位の高い長女のヴィーダの手前、「ウェイトレスは仮の仕事。レストラン経営を目指している」と宣言した後にこれまた、とんとん拍子に話は進み、ついに得意のお手製パイをデザートに出すレストランを開店。

手に職のない専業主婦がシングルマザーとして苦労してレストラン経営の実業家となる成功物語風の番組宣伝には惹かれたものの、美しい女性が男性の助けを借りて、パイが売りの超人気レストランを持つまでになったありそうな展開が、私には残念賞であった。

女の武器を使うのも結構だが、それもやはり美人故のこと。勤めていた店の経験豊富な先輩ウェイトレスのアイダの助けもあってレストランは繁盛するのだが、彼女の店の切り盛りの手際のよさや経営能力も評価されていいような……。

しかし、アイダは外見は美人ではないので注目はされにくいよなあ、と見ていてやや不公平感は否めない。まあ、世の中の常と言えばそうなんだけど。女性の自立を描くものでもあるのかもしれないが、大抵どの作品も結果は同じだなあ、と感じてしまう。どんな状況でも女たった一人で大成功をおさもめるはずはなく、同性の協力者とそして資金力あるいは名声のある男性のバックアップは必要なのだ。ミルドレッドも例外でないことは見てわかる。

美人の得だけじゃなく、ドラマの中で描かれるのは母と娘の葛藤もある。私はむしろ、こちらにポイントを絞った物語にした方が、面白かったのに、と思う。自分の情事の最中、次女が体調を崩し、ミルドレッドは駆けつけるものの娘は死亡する。

子を失う悲しみは当事者でなければ、わからない苦しみだろうが、その悲しみにうちひしがれている暇はなく、残った長女ヴィーダとの「小さい頃からどこかわかり合えない関係」を何とかしたいと彼女は努力するが、和解したように見えても本当は平行線のままの母娘。

ミルドレッドは気付いていないのかもしれないが、二人は双子のように似すぎている、と私は思う。だから、おそらく失った次女以上にヴィーダを愛し、でも愛しすぎるが故に見え隠れする自分に似た部分が疎ましいし、許せない。

自由奔放、自分が一番のヴィーダの姿に自分が果たせない、果たせなかった姿が見えるところに羨ましさと我慢ならない感情が交錯して素直になれないのだろう(親子はお互い素直になれないものかもしれないけれど)。それはラストにも表れている。

バートと離婚したミルドレッドは仕事も成功し、一度は別れたモンティともついに再婚する。ピアノを諦め、オペラ歌手として成功した娘のヴィーダとも何とか和解でき、表だって彼女の支援も出来る喜びにミルドレッドの心は躍るが、だがヴィーダがモンティに恋い焦がれていたことをミルドレッドは気付いていただろうか?

3人で家族として幸せになれると思っていたミルドレッドにやって来たのは、モンティの気持ちがヴィーダへと移っていたという事実(いや、本気かどうかは不明だが)。そして、ヴィーダとモンティはニューヨークでの仕事への旅立ってしまうのだ。

結局ミルドレッドは娘を諦め、バートとやり直す選択をする。実の我が子との絶縁、というのか、決別というのか、ミルドレッドの子供との向き合い方が残念ながら私にはわからなかった。
娘と息子とでは、気持ちの入り方は違うかもしれない。母親は息子を溺愛しがちだと言うが、そして私の周囲にもそう見受けられるパターンは多いと思うが、娘の場合はどんな感じなのだろう、と娘がいない私は思う。

2人は似すぎていたから、うまくいかないんだよ、と言ってあげる周囲の人間は誰もいなかったのが、悲しい。バートも何故気がつかなかったんだろう。いや彼は夫であり父であるから、どちらも同じように愛している、だから見えなかったのかも? でも、まあ、最後に寄り添ってくれるバートがいたのはせめてもの救い。それも美人だからだよなあ、とまた美人じゃない私の気持ちは、美しいケイト・ウィンスレットに嫉妬したのであった。

ミルドレッドを演じたケイト(このサイトでは「エターナル・サンシャイン」、「日蔭のふたり」を紹介しているが、「乙女の祈り」、「いつか晴れた日に」もすごくよかった)は年は取ってもやはり美しい! 若い頃と変わってないなあ、と(やや体型がむっちりした感はあるが)と思う。その彼女の1930年代ファッションも見所の一つかなあ、と思う。どの衣装も「着てみたい」と思わせる素敵なワンピースやスーツだ。

何でも話せるお隣のルーシーを演じたのは、「ヤングライダーズ」でエマを演じたメリッサ・レオ。私はあのときの西部劇の印象が強いので、この役は意外だったが、彼女は映画でも活躍している中堅女優。こちらのルーシー役もよかった。

先輩ウェイトレスのアイダ役には、メア・ウィニンガム(「ジョージア」を紹介)。懐かしい! BPファンとしては今も頑張っている姿は元気が出る。そういう意味では、ウォーリー役のジェームズ・レグロスも同世代、って、どこかで見たような気が…、と思いつつ見ていたのだが、調べてみたらその同世代俳優達の共演がたくさんあった。懐かしい初期の作品、また見たくなった。

ごく普通の男のバート役を演じたブライアン・F・オバーンは、「幸せのレシピ」に出ていたようだが、覚えていない! 他にも映画やドラマに出演しているよう。モンティを演じたのは、おそらくこの俳優陣の中では日本で一番知名度があるであろうガイ・ピアース。この人は何と言っても「L.A.コンフィデンシャル」が代表作と言って文句ないと思うのだが、この女とお金にだらしないギザ野郎モンティの困った男役もはまってて、やっぱり上手いってこと? 彼の作品は見ていないものも結構あるのだが、今はジム・カヴィーゼルと共演した「モンテ・クリスト伯」が観たいなあ。(2014/07/08)