クレアモントホテル

MRS PALFREY AT THE CLAREMONT 2005年 イギリス・アメリカ映画
監督:ダン・アイアランド
出演:ジョーン・プロウライト(パルフリー夫人役)、ルパート・フレンド(ルードヴィック・メイヤー役)、アンナ・マッセイ(アーバスノット夫人役)、ロバート・ラング(オズボーン氏役)、ゾーイ・タッパー(グェンドリン役)、クレア・ヒギンズ(ルードヴィックの母役)


最愛の夫に先立たれた老女パルフリー夫人は、娘家族には世話にならず残された人生を送ろうとロンドンのホテルでの長期滞在客の生活を選ぶ。新天地で新たな人生、のはずだったが、着いたホテルは想像していた洒落た生活ではなく、滞在者たちも自分と似たり寄ったりの高齢者のみ。何もすることがない老人たちの興味は滞在客宛にホテルにかかってくる電話と訪問者に関する噂話。

パルフリー夫人も実はロンドンで一人暮らしをする孫のデズモンドが時々訪れて楽しませてくれることを期待している。もちろん連絡もしたのだが、彼からは何の連絡もない。ホテルで知り合った人達には孫が夕食を一緒にするために訪ねて来てくれると自慢げに話してしまった以上、彼は非常に忙しい仕事をしていると誤魔化し続けるのも限度があると感じている。

そんな時、図書館へ出掛けた帰りに怪我をした夫人を助けてくれた心優しいさわやかな青年ルードヴィック。お礼に彼を食事に誘ったのだが、来てくれた彼を夫人の孫のデズモンドと誤解した滞在者の面々。そこから、偽の祖母、孫の付き合いが始まり‥‥。

デズモンドと連絡が取れないパルフリー夫人と自分の家族を避けているかのようなルードヴィックとの偽の祖母・孫の関係は周囲がうらやむほど素敵で仲がいい。だが、どんなに素晴らしく見えても誰もが問題を抱えている。何ものにも埋められない心の空洞があるものだ。祖母と孫として会っているうちに二人の距離や関係性が少しずつ縮まり、偽の関係であり他人同士なのに本物のように見えてくるのは、デズモンド本人が突然現れたときや娘が母親に会いに来たとき、そしてルードヴィックの母親に会いに行ったときの場面で感じてしまうことだ。

家族のために生きてきたパルフリー夫人は、おそらく愛する夫と描いていた老後の生活が絶たれて、今度は自分のためにちょっとは自由に生きたいと思う。だが、家族はそんな彼女を身勝手と思っている。母1人に育てられたルードヴィックは、重い期待とそれが叶わない無念をぶつける母親にはうんざり。期待には応えたいけどそれが出来ない自分にもやもやしたものを抱えている。母親は何故それをわかってくれないのか?

きっと誰もが自分の家族に対して似たような思いを一度は感じ、考えることだろう。でも多分、一度掛け違えたボタンは元に戻ることなく過ぎてしまうのが、人生の無情さかもしれない。気づいても掛け直すにはあまりにもたくさんありすぎて諦めてしまう。みんなが見ないふりをすることで何事もなかったかのように生活できてしまうのも現実だから。そして、波風を立てないで生きていくことが、まるで人生を楽にする秘訣のように信じているから。

ただ、大事なのは「やり直さなければ」というMustではなくて、事実を受け止めつつもこれからどうするか、なのかもしれないなあと思う。自分を理解する人がいない(誰もが一度は思ったことがあるだろうし)と悩み続けることは、立ち止まっていることだ。
私の友人は、「人は出会いを繰り返す中で、短い期間だとしても心に消えない足跡を残す人がいる」、よいお話でした、と言っていたけど、それは家族だからこそではなくていいし、望む、望まぬも関係ないし、こんな時にこそ、人生の妙を痛感する瞬間とも言える。

大作ではないけれど、じんわりと心に残る作品。舞台のこじんまりとしたクレアモントホテルや、往年の名作「逢いびき」、ワーズワースの詩集といった小道具などなどもこの映画を印象づけるのに一役買っている。私はワーズワースは好きな詩人だけど、実は「逢いびき」が未見なので(映画好きを自称しているのに)、是非見なければいけない宿題の一本となった。

さて、夫人を演じたジョーン・ブロウライトはローレンス・オリヴィエの三度目にして最後の妻。という事実を私は知らなかったんですが、芸歴は長くその実力は認められているイギリスの大女優と言ってもよい人。私のサイトでドラマコーナーにUPしている「アニーは愛された」や、「帰郷/荒れ地に燃える恋」に出演しているよう。日本でも公開されている作品はたくさんあるので、見たことはある、といった感じ?

一方、ルードヴィック役のルパート・フレンド。ノーマークでしたが、やはりイケメンはワクワク、ドキドキする。文句なくかっこいい。最初の登場では、本当は悪い奴? とちょっと疑ってしまうほど、ハンサムで優しくていい人(本当にいい人だったけど)。日本ではドラマ「HOMELAND」の放送で一気に人気が出たようだが、「プライドと偏見」でミスター・ウィッカムを演じた俳優。このルードヴィックや「ヴィクトリア女王 世紀の恋」のアルバート公役を見てしまうと、今はウィッカムと結びつかない! きっと今回のルードヴィックのように現代物もすごーくかっこいいのだろうけど(「HOMELAND」の第1シーズンの途中までしか見ていない私にはイマイチぴんとこない)、やっぱりコスチュームものが見たい! って、今後に大いに期待。(2016/05/19)

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