ルージュの手紙

SAGE FEMME/THE MIDWIFE 2017 フランス作品
監督:マルタン・プロヴォ
出演:カトリーヌ・フロ(クレール役)、 カトリーヌ・ドヌーヴ(ベアトリス役)、オリヴィエ・グルメ(ポール役)、カンタン・ドルメール(シモン役)、ミレーヌ・ドモンジョ(ロランド役)、ポーリーヌ・エチエンヌ(セシール役)


公開当時、チェック映画としてあげたこの作品。フランス映画はなかなか手が出ない管理人ではあるが、思い切って鑑賞! 観てみたいチェック映画として紹介しておきながら、変な表現かもしれないけど、意外に良かった。
母と娘の関係、それは親と子供、兄弟姉妹、夫婦といった関係とともに永遠に完全には理解できない関係と絆の一つと言えるのではないかと思う。ましてや実の産みの母親ではなく義理の、つまり継母である。

子供の頃にやってきて一緒に生活していたとは言え、他人と同じだ。しかも、それでもそれなりに楽しく3人家族として暮らしていたはずなのに、美しく、気まぐれで自由奔放、いろんなことにあっけらかんとしている彼女ベアトリスは、ある突然、父親と自分をおいて出ていってしまう。30年前のことだ。

父はその直後に自殺してしまい、ヒロインのクレールは一人で生きてきた。成長して助産婦として生きる彼女には、今は一人息子がいて、彼には恋人もいる。夫は(あるいは息子の父親)どうしたのか映画の中では語られない。しかし、ささやかな幸せの日常を送っていたのだ。
そこにまた突然、戻ってきた彼女。「私はもうじき死ぬから人生で本当に愛した唯一の男性、あなたのパパに会いたいのよ」。言われたクレールは淡々と接するのみ。この映画には、父親は思い出として語られ、昔のフィルム映像を見るシーンでしか出てこない。しかし、ハンサムで優秀な水泳選手であり、人気者であったであろうと容易に想像できる彼が、クレールが大好きだった父親が、ベアトリスを失ったショックで死んでしまったことは大きな傷になっているに違いない。

それでも、最後にはベアトリスを受け入れることにするクレール。自分ならどうするかなと思うと、「許せない」と追い返すのではないかと思ってしまった。彼女を許せない、とベアトリスに対し思うけど、でも、もしかしたら一人で大人になったクレールもこれまでの人生経験の中でその気持ちを変化させることが出来たのかも。

母と娘はとても上手くいくか、いかないかのどちらか。上手くいっているように見えてもたいてい娘が折れてる。
それが継母と娘なんだから、もっと複雑。この微妙な関係を二人の女優カトリーヌたちは、それぞれの立場で本当にうまく見せてくれる。
ベアトリスのありのままを、そのまま受け入れることで自身も一歩を踏み出せる、と気づいたクレール。そして、人には誰しも「思いを共感できる誰か」だけではなくて、「時を共有できる誰か」が必要なのだ、と実感した映画。

家族は、「共感」よりも「共有」できる時間が大切なのだ。その思い出が人を強くも、幸せにもできる。黙ってクレールのもとを再び去っていったベアトリスは、一人きりで死を迎えるのかも……。でも、きっとその時、心にあるのは寂しさではないのだろう、と思う。それが伝わるストーリーでした。ああいう母親は私は好きにはなれないけれど、ラストのベアトリスのかっこよさにはニヤリとしつつ、それが似合うカトリーヌ・ドヌーヴ、お年を召してもやはり美しい!(2021/4/29)

2017年12月公開のチェック映画「ルージュの手紙」

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